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育成就労制度とは?
メリットや活用のポイント、技能実習制度との違いを紹介

育成就労制度は、技能実習制度に代わる新しい人材育成及び人材確保の制度です。

日本では深刻な人手不足が続いており、多くの企業が対応に追われている現状から、外国人材を活用する必要性が高まっています。育成就労制度は日本国内の人材不足解消にも重きを置いた制度であり、技能実習制度とは異なるものです。

この記事では、育成就労制度の概要や、技能実習制度との違い、メリット、活用のポイントなどを紹介します。

育成就労制度とは

育成就労制度は、日本の人手不足分野における人材育成と人材確保を目的とし、新たに創設される予定の制度です。

ここでは、育成就労制度について解説します。

育成就労制度は技能実習制度に代わる新制度

育成就労制度は、人材育成と人材確保を目的とした技能実習制度に代わる制度です。

技能実習制度から新しく生まれ変わることになり、国際貢献を目的とした技能実習制度は廃止されることになります。

この制度は、外国人材が就労を通して特定技能1号水準の技能を修得し、特定技能人材になることを目指します。

育成就労制度を利用する外国人材は、育成就労産業分野と呼ばれる分野の企業で原則として3年間働くことができます。これによって外国人材は日本でスムーズなキャリア育成が可能となり、企業にとっては日本企業で働く外国人材を長期的な目線で確保できるようになります。

技能実習制度が廃止される理由

技能実習制度が廃止される理由は、技術移転や国際貢献が本来の目的だったものの、一部の受け入れ機関で制度の趣旨に沿わない事例が報告されており、外国人技能実習生の実習環境や権利保護をさらに強化する必要性が指摘されていました。

日本では少子高齢化によって労働人口が減少しており、さまざまな分野において深刻な人手不足が続いているのが現状です。労働力不足に対応するために、外国人材を効率的に育成、確保する新たな仕組みとして、育成就労制度が創設されます。

さらに外国人材の職業教育を重視することにより、日本と外国人材双方にメリットがある仕組みを目指します。

育成就労制度が施行されるタイミング

育成就労制度は2024年6月に国会で可決・成立し、現時点では正式な施行日は未確定ですが、2027年4月の施行を目指し、調整が進められています。

2025年までに基本方針や主務省令を作成し、2025年から2026年にかけて分野別の運用方針を作成する予定となっています。

現段階で運用の詳細が確定しているわけではなく、詳細については、主務省令や運用方針がまとまってから確定となります。

育成就労制度と技能実習制度の違い

育成就労制度と技能実習制度は根本的に異なる制度です。

ここでは、それぞれの制度の違いを解説します。

目的

育成就労制度と技能実習制度では、制度の目的が大きく異なります。

技能実習制度は、外国人材を一定期間日本に受け入れ、外国人材が働きながら学ぶことで発展途上国の人材育成を図るという国際貢献が目的です。一方、育成就労制度は特定技能1号水準の技能を有する人材を育成し、産業分野における人材確保が目的となります。

なお、特定技能1号水準とは、特定技能制度に基づく特定産業分野に関して相当程度の知識や経験が必要な技能を持つ外国人向けの在留資格です。取得するためには、日本語試験や特定産業分野に関する技能試験に合格する必要があります。

特定技能制度については、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
特定技能制度とは?特定技能の種類や対象分野、技能実習との違いについてわかりやすく解説

在留期間

技能実習制度の在留期間は最長5年間であるのに対し、育成就労制度は原則3年で、特定技能1号への移行につなげていくという違いがあります。

技能実習制度は技能実習1号から2号へ、さらに2号から3号へと移行することで、最長5年まで日本に滞在することが可能です。その後は、技能実習生が母国に技術を持ち帰ることとなっているため、原則として技能実習生として5年を超える滞在は認められていません。

一方、育成就労制度は3年の在留中に特定技能1号を目指しますが、特定技能1号は5年を上限とする在留が可能です。その後、条件を満たせば特定技能2号に移行でき、特定技能2号では在留可能な期間の上限がありません。

また、育成就労制度は原則3年の在留期間が設けられているものの、特定技能1号への移行試験に不合格の場合は最長1年以内の範囲で一定の在留継続が認められる方針です。

受け入れ条件

技能実習制度は受け入れから配属されるまでに入国後講習が必要であるのに対し、育成就労制度は受け入れ時にN5レベルの日本語能力を有していることが条件とされる予定です。

技能実習制度では、入国前の6カ月以内に1カ月以上160時間以上の講習を行った場合、入国後の講習を短縮することができます。この事前講習に多額の費用をかけてから、日本に来る技能実習生も多いです。

N5レベルの日本語能力とは、日常生活の中でもよく出会う場面で、ゆっくりと短い会話であれば、必要な情報を聞き取ることができるくらいの能力です。

転籍の可否

技能実習制度では、やむを得ない事情を除き原則転籍はできませんが、育成就労制度では同一企業で一年以上就労した後など、一定の要件の下、転籍することができます。

なお、育成就労制度では企業が受け入れられる転籍者の数は、在籍する育成就労外国人の3分の1に制限されます。さらに地方から都市部の施設が受け入れる場合は、6分の1となります。

このような制限をかけるのは、地方から都市部への人材流出を防止するためです。地方の優良施設は、都市部より多くの人数を受け入れるなどの対策も講じる予定となっています。

また、育成就労制度は転籍が可能であるため、来日渡航費などの初期費用を転籍前の施設が負担することになります。これに対応する形として、転籍までの期間が短いほど転籍先の施設が多く費用を負担する仕組みが設けられる予定です。

対象となる職種

技能実習制度では91職種168作業が対象となるのに対し、育成就労制度では特定技能制度の特定産業分野が対象になる予定です。

現時点での分野は以下の16分野です。

  • サービス関連業:介護、ビルクリーニング、宿泊、外食
  • 製造業関連:工業製品製造業、造船・舶用工業、飲食料品製造
  • 運輸、建設関連:建設、自動車整備、航空、自動車運送業、鉄道
  • 一次産業関連:農業、漁業、林業、木材産業

技能実習制度の方が対象となる職種は幅広く、技能実習制度では対応していた職種が、育成就労制度では対応しなくなる可能性もあります。現時点では未確定のため、今後の発表や変更に注意を払う必要があります。

特定技能制度では国内で労働力が特に深刻な産業に焦点を当て、労働力を効率的に配分するために職種を限定しています。

支援・保護

技能実習制度は外国人技能実習機構が管轄していましたが、育成就労制度では外国人技能実習機構を改組して外国人育成就労機構となる予定です。

改組することによって厳格な管理のもと制度の運営が行われ、出入国在留管理局や労働基準監督署との連携も強化されます。二国間取決めや、悪質な送出機関の排除に向けた取り組み、手数料などの情報の透明性なども強化される予定です。

また、優良監理団体や受け入れ機関に対し、手続きの簡素化など優遇措置の適用も検討されています。

受け入れ企業にとっての育成就労制度のメリット

育成就労制度は受け入れる企業にとって、どのようなメリットがあるのでしょうか。

ここでは、育成就労制度で期待できるメリットを紹介します。

基礎的な日本語能力が証明された人材の受け入れが可能になる

育成就労制度では、入国時点で日本語能力試験N5レベルの日本語能力を有している(※)ことが条件となるため、基礎的な日本語能力が証明された人材を受け入れることができます。(※日本語能力試験合格または相当の講習を受講していること)

技能実習でも日本語能力試験N4以上が推奨はされていますが、試験の合格は必須ではありません。語彙力やリスニング力は個人によって差があることが多いのが現状です。

もちろん、実際の会話となると試験だけでははかれないコミュニケーション能力が大きく影響してきますが、入国時点で最低限の日本語能力試験を受検してきていることは企業にとっても安心材料となるでしょう。

人材の定着が、より期待できる

育成就労制度は原則3年と就労期間は短縮されたものの、修了後に特定技能を取得することで長期での雇用が期待できます。

特定技能1号は最長5年間の滞在、特定技能2号になると在留期間の上限がなく、更新を続けると実質的に無期限で日本に滞在することも可能です。さらに特定技能2号では母国の家族を日本に呼び寄せることもできます。

技能実習制度は技術移転と国際貢献が目的と言う前提があり、基本的には修了後に帰国し、母国の経済発展に寄与することが推奨されています。

一方で、育成就労制度は特定技能1号への移行を前提としている為、特定技能1号に進むために必要な知識や技術、日本語能力が育てられ、特定技能によりスムーズに進みやすくなることが期待できます。

キャリアアップの道筋も明確化され、特定技能への移行がしやすい環境が整うと、外国人材のモチベーション向上にもつながるでしょう。

不正就労が防止しやすくなる

育成就労制度では、外国人材が適切に働けるように、技能実習での「監理団体」に代わる「監理支援機関」という組織が設置され、外国人材の権利保護や不正就労防止のための管理体制の強化が図られます。

監理支援機関は、受け入れ企業への指導監督や育成状況の確認、外国人材への相談対応、日本語学習支援などを行い、制度の適正な運用を担います。また、監理支援機関自体も行政機関による監査を受け、不適切な対応があれば許可取消し等の措置が取られます。

企業にとっては、監理支援機関のサポートにより、外国人材の受け入れや管理がしやすくなり、安心して雇用できる環境が整います。

外国人にとっての育成就労制度のメリット

育成就労制度は、働く外国人材にもさまざまなメリットが期待できます。

ここでは、外国人材にとっての育成就労制度のメリットを解説します。

費用負担が減る

育成就労制度では、技能実習制度で外国人材が負担していたさまざまな費用を、受け入れ機関が負担することになります。

技能実習制度では、外国人材は自国の送り出し機関に手数料が必要で、他にも講習費や渡航費など多くの金銭的な負担があります。

そのため、技能実習制度では、外国人材が渡航前に高額な費用を負担することになり、借金を抱えて来日するケースも少なくありませんでした。一部では、悪質なブローカーに搾取されたり、人権問題が発生したりなど、トラブルも生じています。

育成就労制度では外国人材が負担する費用が減るだけでなく、悪質なブローカーも排除されるため、安心して働けるようにもなります。

ただし、その分企業の負担が増えるということになります。
その点は後ほど別の章でお伝えします。

転籍が条件付きで可能になる

外国人材にとって、技能実習制度ではやむを得ない事情を除き原則として不可だった転籍が、育成就労制度では可能になるというメリットもあります。もちろん、転籍が可能な条件は定められているため、いつでも好きに転籍できるというわけではありませんが、一定の条件を満たすことにより、他の職場を選択できるようになります。よりよい条件の企業に転籍することにより、日本でのキャリアアップの機会も広がるでしょう。

特定技能1号に移行しやすくなる

育成就労制度が特定技能1号への移行を前提としていることは、企業だけでなく、外国人材にとってもメリットがあります。

育成就労制度では、特定技能1号に相当する知識や技術を修得するための育成が行われ、その後も特定技能1号・2号として継続して就労しやすくなる仕組みです。外国人材は自分のスキルを高め、日本国内でのキャリアアップを目指すこともできます。

受け入れ企業が育成就労制度を上手に活用するポイント

育成就労制度には多くのメリットがある一方、受け入れ企業はいくつか気をつけるポイントがあります。

ここでは、受け入れ企業が育成就労制度で注意すべきポイントを解説します。

必要コストを知りコストの管理計画を立てる

前述した通り、技能実習制度では外国人材本人が負担していた費用について、外国人材が借金をして日本に入国するという問題の解決や費用軽減のために、育成就労制度では、受け入れ企業がその費用の多くを負担します。出入国在留管理庁によると、技能実習生が来日前に母国の送出機関や仲介者(送出機関以外)に支払った費用の平均額は54万2,311円となっています。(国により異なります)受け入れ企業がどれくらい費用を負担するかは明確化されていないものの、50万円程度の初期費用が技能実習制度と比較してプラスでかかる可能性もあり、大きな経営課題になる可能性もあります。

受け入れる分野が育成就労制度でも適応となるか確認する

育成就労制度では、受け入れ職種が現行の技能実習制度における91職種168作業(2025年5月時点)から特定技能における分野に限定される見込みです。

その結果、技能実習制度で認められていた対象職種が大幅に削減されることが予想されます。育成就労制度での受け入れ分野に該当するか今後の動きをみていく必要があります。

長期で活躍してもらうための待遇を考える

育成就労制度では一定条件を満たすと転籍が認められるため、人材流出のリスクが高まります。特に転籍前の受け入れ機関は初期費用の負担も発生するため、初期コストを回収する前に人材が離れてしまう可能性もあります。

労働条件や環境が悪いと、外国人材の流出リスクが高まるため、転籍を防ぐためには外国人材にとって魅力的な職場環境や待遇を整えることが重要です。

外国人材の目線に立った環境を整え、「この企業で働き続けたい」という意欲を持ってもらうことが定着率の向上につながります。

教育や研修を充実させる

育成就労制度では、従事する職種に応じた専門知識や技能の向上が重視されており、受け入れ企業は外国人材に対する教育や研修を充実させる必要があります。

具体的には以下のような教育や研修が必要です。

  • 知識や技能習得のための段階的なプログラム
  • 日本語能力向上のためのプログラム
  • 定期的な習熟度の確認

教育や研修を実施するためには人材や時間を確保する必要があり、現場の負担が大きくなる可能性があります。

教育や研修を充実させるだけでなく、限られた人員や予算の中で、効率的に育成を進められる体制作りも必要です。

まとめ

育成就労制度は、技能実習制度に代わって日本の人手不足分野における人材育成と確保を目的に創設される外国人材の受け入れ制度です。

技能実習制度とは目的が異なることや、転籍の可否、支援・保護の内容、受け入れ職種など大きな違いがあります。育成就労制度では長期的な就労を期待できる一方、一定条件を満たすと転籍もできるようになるため、外国人材が長く働きやすい環境を作ることが重要です。

アジア技術交流協同組合(ASEA)」では、経験豊富なスタッフが手厚くしっかりとサポートいたします。

外国人材の受け入れを検討されている企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事を監修した人
アジア技術交流協同組合 代表理事:下茅 亮(しもかや りょう)
下茅 亮(しもかや りょう) アジア技術交流協同組合(ASEA) 代表理事

青山学院大学大学院国際マネジメント研究科(MBA)修了。2016年までIT企業に勤務し、事業企画部門の管理職として海外現地法人のコンサルプロジェクト等を担当。海外事業に携わる中で国際貢献に関心を持ち、ASEAに入職。2018年より代表理事に就任。

著書:『はじめての「外国人材受け入れプロジェクト」』(ダイヤモンド社)